歌歌のレッスン、リモートでできる??
目次
(2021年4月 ペルージャ音楽院 卒業論文、演奏会後)
ペルージャ音楽院最後の一年
2018年秋、私はイタリア中部の町、ペルージャの、F.モルラッキ音楽院大学院課程に入学しました。
最初の一年間はパンデミック前でしたので、誰もマスクなどせず、私も当然普通に合唱、重唱、舞台基礎演技法など、多人数での授業を受けていました。学校の雰囲気にも慣れ、友人や知り合いも増えて楽しくなってきた頃、covid19の大流行を受け、休校、更には外出制限となり、当初は一ヶ月ほど途方にくれてしまいました。しかし、いつまでもぼんやりしていられないぞ、と各授業の先生方と連絡を取ったところ、多くの先生がオンライン授業に対応しようとしており、声楽実技、室内歌曲、バロック音楽、舞台基礎演技法、楽式の授業をオンラインで受けることになりました(実技科目は、最終的には試験直前に対面レッスンも行われ、試験も対面でした)。私自身は元々パソコンやスマホに詳しくなく、どちらかと言えばアナログ人間なので、正直なところオンライン授業には消極的でしたが、勉強を一時中断するという選択肢は無かったので、しぶしぶZOOMの使い方を学んだ記憶があります。結果的には、このオンラインレッスンが、私の学生生活最後の一年間を、大いに支えてくれました。
(2022年4月 カンペッロ スル クリトゥンノ)
リモートでできること
前提として、音楽は生演奏、ライブで行うものだと私は考えます。何故かというと、耳に聞こえる音だけではなく、響き、息遣い、言葉では表現できないけれども、その場にいるからこそ共有できる演奏者と観客の感覚、そういったもの全てが音楽の要素だと考えるからです。それでは、オンラインレッスンの意義とは何でしょうか?自分が生徒として受けた経験から振り返ると、技術の向上、知識を増やすこと、モチベーションの維持に大変役立ちました。発声練習は日々の積み重ねが大切ですので、対面レッスンができない時も、オンラインで教師からポジションや筋肉の使い方を確認してもらうことは有効です。私の場合は、音楽院のレッスンがオンラインの時期、普段よりも長く発声練習を見てもらえたおかげで、高音がさらに出しやすくなり、音域が広がりました。他にも例えば、オンラインで伴奏と合わせることは難しくても、基本に立ち返り、リズム、音程を丁寧に見直すと、いざ実際に合わせた時に、よりスムーズに歌えるはずです。
そして何より、音楽を「続ける」こと!対面でできないから、と長期に亘ってお休みしてしまうと、筋肉は簡単に衰えますし、音楽に対する感覚も鈍ってしまい、「歌いたい!」という気持ち自体が消えていってしまいます。加えて、これはあくまで個人的な意見ですが、歌が好きな人は、総じて人とお喋りをすることも好きな人が多いように思います。私は、音楽院に通えない期間も、定期的にオンラインで先生方に会い、レッスンを受けながら自分の学習の進展や、一人ではやりにくいことなどを相談することで、自分のモチベーションを保つことができました。
(2022年4月 アッシジ聖フランチェスコ大聖堂)
リモートだからこそできること
音楽院を卒業した後も、私はイタリアに住んでおり、声楽の勉強を続けています。現在(2022年4月)は幸い、演奏活動に大きな制限はなく、日々の稽古や合わせ、そして勿論本番の演奏も、対面、観客有りで行っています。感染症対策が必要なので、全く以前と同じというわけにはまだいかないですが、それでも、舞台に立てる幸せを強く感じます。そうした日々の中で、合唱団員としての仕事や、自分のコンサート、また、コンクールやオーディションに挑戦している経験を、教えることにも活かせないかと考えた時、リモートレッスンが頭に浮かびました。私は主にイタリア古典歌曲からオペラ、宗教音楽等を専門としていますが、基本的にはジャンルに関わらず、「自分が無理なく歌い続けられる歌い方」が良い歌い方だと思います。スポーツ選手たちが正しいフォームを学ぶように、歌にも基本のフォームがあります。特に大切なのは、「呼吸」です。それは一日でポーンと身につくものではないので、地道に体に覚えさせていくことが大切です。そうは言っても、日々の生活が忙しく、定期的にレッスンに通うことが難しい、家の近くには音楽教室が無い、という場合も有り得ます。そのような時、リモートであれば、近所どころか約1万キロ離れたイタリアからのレッスンも受けられます。世界中どこにいても繋がることができるのは、リモートの大きな長所と言えるかもしれません。
(2021年12月 ボローニャ)
この記事を書いた講師:Yukiko先生(メイン楽器:声楽)
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